「どうせ無理」をなくす経営 —— 夢がロケットを動かす町工場の物語【書評】

『NASAより宇宙に近い町工場』

「どうせ無理」

その言葉が、どれだけ多くの可能性を摘んできたのでしょうか。
今回ご紹介するのは、北海道・赤平市の小さな町工場から、宇宙を目指した男のリアルな挑戦を描いた一冊。株式会社植松電機 社長・植松努さんの著書『NASAより宇宙に近い町工場』です。

きっかけは、ある動画でした。
「日本一感動する講演」と話題になった植松さんの講演の一部をYouTubeで観たあと、いてもたってもいられず手に取ったのがこの本です。

一見するとロケット開発の話に思えるかもしれません。ですが、読み進めていくと、その奥にある「人間の可能性」「夢」「働く意味」といったテーマが静かに、しかし強く胸に迫ってきます。

町工場が本気でロケットを飛ばす——想像を超える挑戦

植松電機の本業は、産業廃棄物から鉄を回収するマグネットの製造。市場ではほぼ独占状態とのこと。
そんな安定した事業の利益を元に、補助金ゼロ、自腹でロケット開発に取り組んでいるというから驚きです。

「ロケットって、そんな簡単に作れるものなの?」
「町工場がやる意味は?」

そんな疑問が浮かびましたが、読み進めるうちに気づかされます。これは突飛な挑戦ではなく、むしろ「人の可能性を信じる」ことへの信念から始まった、極めてまっすぐな行動なのだと。

「どうせ無理」に押しつぶされそうだった少年が見た夢

植松さんがロケットや飛行機に憧れたのは、幼い頃に大好きだった祖父母の影響でした。
しかし小学校の卒業文集に「ロケットを作りたい」と書いたとき、担任の先生にこう言われます。

「できもしないことを書くな。ちゃんと職業を書け」

中学でも高校でも、「ここに生まれた段階で無理」「夢なんて叶うわけがない」と言われ続けたといいます。

ふと、私自身のことも思い出しました。
高校時代、夢を語り進学先を担任に伝えた際、「お前には無理だ」と志望変更を迫られたあの瞬間。私はあきらめてしまいました。

でも、植松さんは違ったのです。誰かが「無理」と言ったからといって、自分も諦める必要はない。
そう信じて、学び続けたのです。

「好き」が奪われると、人は枯れてしまう

その後、航空機メーカーへの就職を果たした植松さん。しかし、5年半で退職します。
理由は、「飛行機が好きな人が誰もいなかったから」。

好きなものに囲まれたはずの職場で、ワクワクしている人がいない。
ただ言われたことをこなす日々に、自分の心が枯れていくのを感じたそうです。

「好きという気持ちが奪われたとき、人は指示待ち族になる」

この言葉が刺さりました。
私たちの周りにも、かつて夢を語っていたのに、今は黙々と働くだけになってしまった人がいるかもしれません。
その夢が潰されたのは、もしかすると子どもの頃だったのか、大人になってからなのか……。

そう考えたとき、自分自身もまた、誰かの「好き」を知らず知らずのうちに奪っていないかと省みたくなりました。

「やったことがないからできない」は思い込みにすぎない

ある日、植松さんは社員に何も告げず、一人でロケットエンジンの開発を始めます。
数カ月後、ついにエンジンが動く。驚いた社員たちは、「もしかしたら自分にもできるかも」と思い始め、半年後にはロケットが完成します。

ここから見えてくるのは、「できるかどうか」はスキルの問題ではなく、「信じられるかどうか」の問題だということ。
「やったことがないから無理」という思考は、自分で自分を縛る鎖にもなり得るのです。

子どもにも、大人にも通じる大切な教訓です。

働くとは何か——人の可能性を信じ続ける経営

植松電機の経営スタイルも、とてもユニークです。

  • 稼働率は下げる
  • 売りすぎない、作りすぎない
  • 壊れないものを作り、浮いた時間で新しい挑戦をする

効率と利益を追いがちな現代の企業経営に対して、一石を投じるような考え方です。

植松さんはこう語ります。

「“しんどい”にこそビジネスチャンスがある」
「“好き”がなければ、人は学べない」
「給料分だけ働くと、給料分の人間で終わってしまう」

耳が痛くなる言葉もありますが、それだけ本質を突いているということでしょう。
この本を通して、働くことの意味や、自分自身が何を大切にして生きたいのかを問い直されました。

「誰かの夢を信じられる大人」でありたい

この本で植松さんはこう語っています。

「夢は“好きなこと”、仕事は“人の役に立つこと”。そのふたつが重なったとき、夢は現実になる」
「感動が夢を生む。夢は、多ければ多いほどいい」

この本には、たしかに感動があります。
でもそれ以上に、「自分はどう生きたいか」「他者とどう関わりたいか」を深く考えさせられる問いが詰まっています。

子どもが夢を語ったとき、社員が新しい挑戦をしたいと言ったとき
私は、どんな言葉を返すだろうか…。「どうせ無理」と心の中で決めつけないだろうか。


誰かの夢を、可能性を、信じられる大人でありたいなと、この本を読んだ今、私は強く思います。

書籍情報
書名:『NASAより宇宙より近い町工場』
著者: 植松努
出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン

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