嫌な未来を変えるためにできること

『私はロボットではありません』【書評】

「嫌な未来なら変えればいい」
——その一言に、私は思わずページをめくる手を止められませんでした。
どこかで聞いたことのあるような言葉ですが、この本の中で出会うと、不思議と胸の奥に深く突き刺さります。
それは、私自身の働き方やこれまでの経験と重なったからかもしれません。

今回ご紹介するのは、長瀬光弘さんの小説『私はロボットではありません』。

AIが未来を予測し映像で見せてくれる世界を舞台に、働き方や人生の選択を描いた物語です。
フィクションでありながら、私たちの身近な日常や職場の風景と驚くほどリンクしています。

働くことが輝いて見えたあの頃から…

私は現在、社労士事務所で働いています。
顧問先の社員さんたちに「働くことはもっとワクワクできる」という前向きなメッセージを届けるのも、大切な仕事のひとつです。
ですが、正直に言えば最初からそんな想いを持って働いていたわけではありません。

就職活動の頃は、社会人になる自分に胸を躍らせていました。
入社式の日、真新しいスーツに袖を通し、「これからがスタートだ」とキラキラした気持ちでいっぱいでした。
憧れの会社に入れた誇らしさと、先輩たちの背中を追う日々。
あの頃は、働くことが未来への希望そのものだったのです。

しかし、半年が経つ頃から少しずつ歯車が狂い始めます。
業務は覚えたはずなのに、何をやっても褒められず、むしろ注意を受けることが増えていきました。
疲労と焦りで余裕がなくなり、「明日、会社に行きたくないな…」と思う朝が増えていき…
気づけば、3年目の終わりには「辞めたい」という言葉が心の中で常連になっていました。

この小説の主人公——“ロボ健”こと西原健太も、まさにそんな状況に置かれています。
だからこそ、この物語を読みながら、自分の過去の姿をまざまざと思い出しました。

主人公・ロボ健が見た“変わらない未来”

健太は新卒3年目。同期からは“ロボ健”と呼ばれています。
ロボットのように上司の言うことをただこなし、表情も乏しく、楽しそうに働いている様子がない——そんな印象からついたあだ名です。

ある日、彼はAIが個人の未来を予測し映像で見せてくれる無料キャンペーンに当選します。
興味半分でアクセスし、再生ボタンを押すと、そこには冴えない未来の自分の姿が——。
若い女性上司に叱責され、評価も下がり、ついにはリストラを告げられる中年男性。
それが、10年後の健太自身だったのです。

現実感のある映像に呆然とする健太。
その前に、ひとりの謎めいた男性が現れます。
そしてこう言うのです。

「嫌な未来なら変えればいい」
「周りを変えるより、自分が変わる方が簡単だ」

さらに彼は、健太の働き方を一言で見抜きます。

「君は、思考を他人に委ねるクセがついている」

小さな改善が未来を変える

物語はここから、健太が未来の動画を見ては失敗し、その原因を男性との対話で探り、改善していく…というサイクルで進んでいきます。

例えば、「せっかく仕事を任されたのに…」と上司にがっかりされる未来映像。
原因が分からない健太に、男性は質問を重ねます。

「いつ、誰と、どのように進めたのか?」
「相手は何を期待していたのか?」
そのやり取りを通じ、健太は“タスクを細分化していなかった”という根本的な課題に気づくのです。

この繰り返しの中で登場するのが、「タスクばらし」「ザッソウ」「振り返り」といった社会人の基礎スキル。
しかしこれらは、多くの若手社員が知っているようで実践できていないことばかり。
読者は、健太の成長を追いながら、自然と仕事の改善法を吸収していけます。

マネジメントのヒントも満載

印象的なのは、男性の関わり方です。
彼は答えを直接教えません。
代わりに、考えるための質問を投げかけ、健太に「自分で気づく」経験を積ませます。
これは部下指導の現場でも使える有効なアプローチです。

この本は、

仕事がうまくいかず悩む若手社員、部下指導に悩む上司や先輩社員
両方におすすめできます。

働くことで輝く未来をつくるために

「未来は変えられる」という言葉は簡単に聞こえます。

けれど、この物語を読むと、その一歩が「ほんの小さな行動」から始まることが分かります。
行動を変えれば、考え方が変わり、やがて未来も変わる——健太の成長がそれを証明してくれます。

私自身も、働き方に迷った時期があったからこそ、この本が教えてくれることの重みを強く感じました。
そして、誰もが働くことで輝ける未来を持てるよう、MiraQを全国へ広げていきたいという想いが、いっそう強くなりました。

もし今、あなたが「このままでいいのかな」と感じているなら、
『私はロボットではありません』が、その問いに答えるきっかけになるかもしれません。


書籍情報
書名:『私はロボットではありません』
著者: 長瀬 光弘
出版社:倉貫書房

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